今(2022年1月現在)から5ヶ月前「ヘスペリジンは新型コロナウイルス感染症に有効」とする論文が出ました(Nutrients 2021年13巻8号)。
論文名は ”Hesperidin Is a Potential Inhibitor against SARS-CoV-2 Infection”
“SARS-CoV-2”は「新型コロナウイルス」のこと。つまり「ヘスペリジンは、新型コロナウイルス感染症の症状悪化を抑制するポテンシャルをもっている(有効性がある)」を意味します。この論文が出た真夏、英文を読みながら「ヘスペリジンを含む生薬といえば陳皮(ちんぴ)だな。陳皮は新型コロナウイルス感染症の予防、症状悪化の阻止に有効なのでは?」と考えていました。
ヘスペリジンは、柑橘系の果物から分離されたフラボノイドの一種ですが、以前から心臓や血管系の保護作用につき研究が進んでいます。結論から言うと、ヘスペリジンは細胞膜の蛋白質、II型膜貫通型セリンプロテアーゼ(TMPRSS2)とアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)、この2つに結合します。
新型コロナウイルスはこの2種類の蛋白質(TMPRSS2, ACE2)をつかって細胞内に侵入するのですが、ヘスペリジンがその侵入を邪魔する、つまりヘスペリジンは新型コロナウイルス感染症の進展を抑える働きがある、とする論文です。ちなみに、ヘスペリジンの代謝産物のヘスペレチンも、ヘスペリジンと同様の結果でした。
この論文のユニークな点は解析方法、ドッキングシミュレーション。蛋白質などの物質は構造式(ベンゼン環など)で平面的に表現できますが、実際は3次元的に立体で存在します。また時間とともに刻々とその形態が変化していくため、4次元的ともいえます。静的(static)なものではなく動的(dynamic)に変化するものです。その2つ以上の物質(低分子・高分子)の相互作用を、コンピューターで計算・推定する方法がドッキングシミュレーションです。
「しょせんコンピューターでしょ?」と思われるでしょうか? これを人海戦術でおこなうのは無理です。また年々コンピューターの解析スピード、精度が上がってきており近年、新薬開発にも利用されるようになってきました。専門的な話ですが、高分子の蛋白質も疎水性・親水性(油になじむか、水になじむか)やリン酸化の有無など化学変化によって、2種類以上の蛋白質が接着しやすいか否か、その部位はどこか、等が決まっていきます。
続きは次回に。
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2022年1月29日
文責 みちとせクリニック院長
堀田広満