「2023年に入れば安定供給されるようになるかな」と楽観してましたが、漢方の粉薬(エキス剤と呼ばれます)がまだまだ品薄のようです。原因は、漢方が新型コロナウイルス感染症の急性期および慢性期治療に必要とされているから、です。需要があるんですよ。新時代の漢方。

2021年には、全身倦怠感などの新型コロナウイルス感染症の後遺症に補中益気湯が効く、など騒がれ始めていましたが「知る人ぞ知る」ニュースでした。しかし昨年2022年8月には、ついに某社の漢方製剤群が安定供給できないほどとなり、28品目の漢方エキス剤が「生産調整」「限定出荷」となりました。

それがB社、C社…と飛び火したようで、日本国内で漢方エキス製剤をとりあつかう企業が影響を受けています。A社はまだ23品目を出荷できていない(5か月経過した昨年末時点)、とのこと。

さて…当クリニック、みちとせはどうか、というと、生薬そのものを煎じる自由診療なので影響はほぼありません。そもそも漢方のエキス製剤の主な需要は保険診療にあり、保険で十分効果が出るのであれば、それも結構なことです。ただし安定供給は大前提。

たとえてみれば、インスタントコーヒーの在庫がなくなって慌てたお客さんが店員さんに「今度いつ納入されるんですか?」と問い合わせたところで、「とにかく入ると得意先にすぐ売れて、まだ分からないんです!」と現場も状況を把握できていない、というところでしょう。

お客さん。インスタントコーヒーに限らず、コーヒー豆そのものを取り寄せてドリップコーヒーにすれば良いだけの話、かもしれませんぜ。即席では提供できない、アロマの芳醇な香り、濃厚な風味があなたを満たします。

私が危惧しているのは、新型コロナウイルスなど一過性のことではなく、今後かならず起きてくる漢方エキス製剤の価格破壊。インスタントコーヒーにたとえたエキス製剤は、現状の保険診療のままだと(保険の薬価改定などで)値崩れを起こしてきます。中国など他国でも生薬の価値が上がってきており、原価は上昇。一方の保険診療下での売値は、値下がり。となれば、どこかで逆ザヤになってきます。売れば売るだけ企業の赤字に。対策としては生薬の質を落とす、生産農家の人件費を減らす…あまり考えたくないですね。

「保険診療から漢方がなくなるはずが無い」と楽観視する人も多いですが、団塊の世代が団塊でなくなる時代の少し前に、保険診療からの漢方はずしが起きるのでは?と私は考えています。それが私が自由診療に舵をきった理由のひとつです。いや、もっとポジティブに、いにしえから伝わる元々の漢方をお出ししたい、だけなのですが。

いま起きている漢方エキス不足、その混乱は、これからちょっと先の時代の予行演習かもしれません。
あなたもどうですか? ドリップコーヒー。良質な豆をとりそろえるように、適正な生薬が入ってきているか、目を光らせつつ日々、生薬を患者さんにご提供しています。

違いの分かる人には分かる、煎じ生薬。自信をもってお勧めします。

【以上、転載禁止】

2023年1月12日

みちとせクリニック院長

堀田広満

長文なので、結論を最初に。

漢方生薬の陳皮などシトラス系にふくまれるヘスペリジンおよびヘスペレチンは、新型コロナウイルスが細胞内に侵入・感染するために必要なスパイク蛋白を減らします。ただし、猿の腎臓由来の細胞レベルの実験結果(in vitro)でありヒト個体の治験(in vivo)ではないことが重要で、この実験のみで話を単純化させてはいけません。

新型コロナウイルスは、ウイルス自身に存在するスパイク蛋白をヒト細胞の蛋白、ACE2およびTMPRESS2に結合させ、それを足掛かりにヒト細胞内に侵入、感染が成立します。つまり新型コロナウイルスのスパイク蛋白、ヒトのACE2およびTMPRESS2、それぞれの蛋白量、結合の度合いによって感染のスピード、重症度も変化することが知られています。

ところで、新型コロナウイルスは糖尿病や高血圧など生活習慣病を合併している人が重症化しやすい、とご存知の方も多いでしょう。高血圧の人が重症化しやすいのも、このACE2の蛋白量が正常人よりも多いためではないか、と言われています。同様に喫煙者も肺などの気道粘膜細胞上でのACE2蛋白量が増えており、ノンスモーカーより新型コロナウイルスに感染しやすいとされます。

前回紹介した論文ですが、下記の実験もおこなっています。すなわち、ヒトのACE2に結合する新型コロナウイルスのスパイク蛋白をVeroE6という細胞に強制的に発現させ、生薬の陳皮などシトラス系にふくまれるヘスペリジンおよびヘスペレチンがそれぞれ、スパイク蛋白を減らすか否か、を検討した実験です。


(ちなみに、猿の腎臓由来のVeroE6細胞はSARSが流行した際にも研究に活用され、SARSコロナウイルスが安定して発現しやすい培養細胞のひとつ)

ヘスペリジンおよびヘスペレチンが新型コロナウイルスのスパイク蛋白を減らすのですが、その機序は2つあります。まず新型コロナウイルス中のスパイク蛋白とACE2受容体同士の結合を妨げること、さらにACE2およびTMPRESS2の蛋白発現の量を減らすことです。

新型コロナウイルスのスパイク蛋白は、もとのタイプ(Wild)から変化します。これがいわゆる「変異型」です。「ワクチンが前の型には有効であったが、今回のオミクロンなどの変異型には有効であるのか?」と議論されますが、具体的には「D614Gスパイク変異」「501Y.v2スパイク変異」など種々あります。この下の図にある “D614G” “501Y.v2” も変異型で反応に変化が起きないか、つまりヘスペリジン(HD)およびヘスペレチン(HT)の効き方に差がないか、を調べているんです。

Chen, Nutrients 2021年13巻8号

図の各A-Dは下記のとおり。
(A) レンチウイルスのスパイク蛋白
(B) 新型コロナウイルスのスパイク蛋白(Wild)
(C) 新型コロナウイルスのD614Gスパイク変異
(D) 新型コロナウイルスの501Y.v2スパイク変異

VeroE6細胞に2日間、ヘスペリジンもしくはヘスペレチンを反応させる。

その後、そのVeroE6細胞にウイルスの成分(A)(B)(C)(D)を1日間、反応させる。

さて縦軸は、VeroE6細胞へ各々がどれだけ結合するか(感染モデル)ですが、どう変化するか? (図の HDはヘスペリジン、HTはヘスペレチン、Control はHD・HTを入れない対照群)

(A) 新型コロナウイルスではないレンチウイルスの系は、ヘスペリジン(HD)、ヘスペレチン(HT)両者ともにスパイク蛋白が細胞内へ侵入するのを抑えられなかった。

一方、新型コロナウイルス感染症モデルである3系統は
(B) もとのスパイク蛋白(Wild)
(C) D614Gスパイク変異蛋白
(D) 501Y.v2スパイク変異蛋白

すべてヘスペリジン(HD)、ヘスペレチン(HT)両者ともにスパイク蛋白の細胞内への侵入を防いでいることが分かります(縦軸の減少の度合いが強いほど、治療効果の可能性あり)。

統計学的に意味のあることを「有意差」とあらわしますが、この図ではP値が少ないほど有意差が強く(一般的には0.05未満)、図では**が<0.01, ***が<0.001, ****が<0.0001と、かなり強い結果となっており興味深いです。

つまり、ヘスペリジンおよびヘスペレチンは、細胞内に新型コロナウイルスウイルスが侵入することを防ぐ可能性が高いのです。ただし冒頭に述べたように、この実験はヒト由来の実験系ではないことを再び強調します。「ヘスペリジンもしくはヘスペレチンをふくむシトラス系(たとえば生薬の陳皮など)がヒトの新型コロナウイルス感染症に必ず効く」などと短絡的な思考をしてはいけない。それは単純系の科学ではない、ということです。

【以上、転載禁止】

2022年2月10日

文責 みちとせクリニック院長

堀田広満

「陳皮-2」の記事を書く前に、新型コロナ感染症に関しての良書『新型コロナとワクチン 知らないと不都合な真実』(峰 宗太郎・山中 浩之 著)を紹介します。

TVで峰医師をみた方も多いのではないでしょうか。本当に現場に必要とされる医師はテレビに出演する時間もない場合が多く、TVに出ている時点で「嘘なんじゃね? 大丈夫?」と斜に構えてコメントを聞くべきこともあります。が、この本はバランスがとれていて首肯できます。対談相手の山中さん(以下Y)が医療者ではないのが功を奏しており、一般の方には理解しやすいと思います。

(以下、引用始)

 ご自身が、本を閉じてからまずやるべきことを考えてみてください。(中略)それは、「本は読んだけど、峰とYさんから聞いたことを、本当に丸呑みしていいの?という疑問を感じること」です。

Y お金を払ってお読みいただいたラストに、ものすごい結論が来ました。怒られないといいんですが…

 でもそういうことですよ。これで、峰が、あるいはYさんが言うことはみんな正しい、なんて思うなら、おそらく別の本を読んだらまたひっくり返る、出てきた情報に飛びついて振り回される、そういう可能性があるってことでしょう。峰が正しいか、別のなんとか先生が正しいか、などということは、はっきり言えばどうでもいいんです。

(引用終)

終始こんな感じ(笑)。オミクロン型が出現する前の出版(初版2020年12月)ですが、オミクロンなど潜伏期間の短い型が出現した現在でも、科学の正しい捉え方、集団へのPCR検査の意味(特異度、感度)など総論はためになります。

この本で挙げられた「呼吸器感染症の予防法リスト」。これからも重要です。

  1. 栄養と睡眠をしっかりとる
  2. 手指衛生(手洗い)の徹底
  3. 咳エチケット
  4. 3密を避ける
  5. 体調不良者と接触しない、体調不良なら外出しない
  6. マスクの着用
  7. 十分な換気
  8. うがいについては水で十分

「当たり前の【よく食べ】【よく眠る】が感染症対策のゴールデンルール」と1章のまとめに書かれています。上記の予防法リストにも「ワクチン」と書かれていないのがポイントです。ワクチンより先にやるべきことがある、という点は今も変わりがありません(この点、実は2019年まで大流行していたインフルエンザもまったく同様)。「栄養と睡眠」は養生であり、「栄養」は生薬、「睡眠」は針灸をふくめた自律神経系の調節ともかかわりが深いです。

ところで東洋医学にたずさわる方の中に、トンデモ本を出す人がいるのは本当に残念です。恥ずかしい。私は常に西洋医学のフィルターをとおして、東洋医学をみつめる習慣をつけています。その上で、目の前の患者さんにとって西洋医学の方が better と判断すれば、東洋医学ではなく西洋医学が良い旨、つたえています。

2022年1月31日

文責 みちとせクリニック院長

堀田広満

今(2022年1月現在)から5ヶ月前「ヘスペリジンは新型コロナウイルス感染症に有効」とする論文が出ました(Nutrients 2021年13巻8号)。

論文名は ”Hesperidin Is a Potential Inhibitor against SARS-CoV-2 Infection” 

“SARS-CoV-2”は「新型コロナウイルス」のこと。つまり「ヘスペリジンは、新型コロナウイルス感染症の症状悪化を抑制するポテンシャルをもっている(有効性がある)」を意味します。この論文が出た真夏、英文を読みながら「ヘスペリジンを含む生薬といえば陳皮(ちんぴ)だな。陳皮は新型コロナウイルス感染症の予防、症状悪化の阻止に有効なのでは?」と考えていました。

ヘスペリジンは、柑橘系の果物から分離されたフラボノイドの一種ですが、以前から心臓や血管系の保護作用につき研究が進んでいます。結論から言うと、ヘスペリジンは細胞膜の蛋白質、II型膜貫通型セリンプロテアーゼ(TMPRSS2)とアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)、この2つに結合します。

新型コロナウイルスはこの2種類の蛋白質(TMPRSS2, ACE2)をつかって細胞内に侵入するのですが、ヘスペリジンがその侵入を邪魔する、つまりヘスペリジンは新型コロナウイルス感染症の進展を抑える働きがある、とする論文です。ちなみに、ヘスペリジンの代謝産物のヘスペレチンも、ヘスペリジンと同様の結果でした。

Chen, Nutrients 2021年13巻8号

この論文のユニークな点は解析方法、ドッキングシミュレーション。蛋白質などの物質は構造式(ベンゼン環など)で平面的に表現できますが、実際は3次元的に立体で存在します。また時間とともに刻々とその形態が変化していくため、4次元的ともいえます。静的(static)なものではなく動的(dynamic)に変化するものです。その2つ以上の物質(低分子・高分子)の相互作用を、コンピューターで計算・推定する方法がドッキングシミュレーションです。

「しょせんコンピューターでしょ?」と思われるでしょうか? これを人海戦術でおこなうのは無理です。また年々コンピューターの解析スピード、精度が上がってきており近年、新薬開発にも利用されるようになってきました。専門的な話ですが、高分子の蛋白質も疎水性・親水性(油になじむか、水になじむか)やリン酸化の有無など化学変化によって、2種類以上の蛋白質が接着しやすいか否か、その部位はどこか、等が決まっていきます。

続きは次回に。

【以上、転載禁止】

2022年1月29日

文責 みちとせクリニック院長

堀田広満

デカルトを中心とした近世の哲学者らによって始まった科学、サイエンスですが、彼が『方法序説』を著した1637年から384年間(2021年現在)経過しており、おおざっぱに言えば、彼らの哲学が科学の主流となって約400年を過ぎました。そろそろ、その哲学に反動がくる、いやもう来ているかと感じています。

「私は目に見えない現象は信じない。またその現象が再現性、つまり繰り返し証明されるものでなければ、信じない」現代科学の主流は、この要素還元論にもとづきます。

私も西洋医学を修める際、西洋哲学は徹底的に仕込まれました。白血病など悪性腫瘍を専門とし移植医療、抗がん剤など化学療法を主体に治療してきた経歴をもつ私は、現在も科学の重要性を否定しません。人間はだまされやすいから、です。

その一方で要素還元論(単純系の科学)が万能ではないことを痛感してきました。臨床現場で患者さんに真剣に対峙し、逃げずに治療を突き詰めればその結論に達するはずです。そして複雑系をとりあつかえる医学、漢方、針灸に出会いました。医者となり5年目(2000)、移植医療にたずさわりつつ日本東洋医学会に入会し、あれから21年。

現在、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が猛威をふるっていますが、科学的な判断を厳密におこなうための治験も十分におこなわれず(というよりも、その緊急性のため行えず)、世界各国でワクチンが接種されています。なのでデルタ株、これから拡大するであろうラムダ株などの更なる変異型が今後、今のワクチンで切り抜けられるかは未知数です。デカルトが言った「科学」的に考えれば。繰り返しの証明ができないので。現時点での正当な科学の答えは「分からない」が正しい。

感染予防のエビデンスに乏しいと言われてきたマスク着用も結局、感染の有無に関係なく重要であることを、皆さんは既に御存知でしょう。コロナワクチンの接種を済ませても、マスクはしばらく必要です。いわゆるブレイクスルー感染ですが、ワクチン接種完了後も新型コロナウイルスに感染する事例が多く、いまイスラエル、イギリスなど各国がこの反省の切っ先に立っています。

コロナ禍の当初、ある番組で「(予防に)非感染者がマスクを着けるのは意味がない」と発言していた医師がいました(単純系の科学では、ある意味正しいです。エビデンスが無いので。ですが、私はCOVID-19に限らずマスクをしてきました)。その際、お笑い界の「殿」が「先生がマスクしているのを見たら、たたいてやるぞ!(笑)」という趣旨で笑わせていましたが、その後、どうなったでしょうかネ。

科学はカッコイイのですが万能ではなく、しかしそれでも重要なものです。単純系の要素還元論、また複雑系の東洋医学はそれぞれ対立するものではなく、補完しあうものと私はとらえます。

そういえば昨年末(2020)から「風の時代」がはじまった、という人もいます。
簡単にいえば、上級国民が主流でなくなり、むしろ庶民が主体となる時代。
マテリアル(モノ、カネ)から情報、精神(伝達、スピリチュアル、愛)へ。
モノ・カネを右から左に動かすだけでは、富が生まれなくなった時代。
むしろ伝達する人、隣人に分け与える人が生きやすくなる一方、自分の手を汚さないサイコパスには生きづらい時代、とも言えましょう。ある意味、正しい反動です。

5年前(2016)わたしが『小児外科』誌に寄稿した「小児漢方の歴史と未来」に、こんな文章があります。
(引用始、図を参照)


「日本史の周期性を論考する。都が京都、鎌倉、江戸と遷ったがおのおの、間隔は約400年である。平安京(794年)から鎌倉開府(1192年)まで貴族による中央集権が続いたが、その後戦国の世となり、関ヶ原の戦い(1600年)までは各領地をもつ武家が乱立した。この約800年のあいだ、主たる医療者は前4世紀が宮廷医、後4世紀は僧医であり、両者は劇的にシフトした。また江戸開府(1603年)から近年まで4世紀間、主な危機は内乱よりも国外にあり、再び中央集権化したが、2001年の9.11以降世界的には内乱、テロが勃発し中世と似た状況にある」
(引用終)

ヒトの寿命が200年、300年と伸びていかない限り、この周期性は失われないと推察しています。これから400年、戦争よりもむしろ内乱・テロに要注意と考えます。香港、ミャンマー、ハイチ、アフガニスタンなど、この2年で様変わりした世界で、日本も変化していくでしょう。

つまり今後、中世還りをするとわたしは考えています。古典にもとづく東洋医学も出番が増えます。「いまさら漢方? 針灸?」と感じる方もいるでしょう。しかし、これからの時代、先祖がのこしてくれた経験値、生薬・針といった手にとれる歴史的遺産が、また医療施設というハード面の境界線を超える垣根の低いボーダーレスな、フットワークの軽さが重要と思います。

今年、厚生労働省が柔軟な対応に踏み切ってくれたオンライン診療も、治験や新薬には不向きですが一方、歴史の蓄積がある治療には向いています。また訪問診療やオンライン診療が増える今後、必要とされる医者は中世・戦国時代の「僧医」と似てくるでしょう。外に出ない内向きな平安時代の「宮廷医」よりも。

前述の論文で、わたしはこうも書きました。
(引用始)
「わが国の医療は緩やかに中世還りをするはずだ。保険診療の財源確保が困難ゆえ患者が自動的・安定的に来院する時代は終わり、医療機関の経営は不安定性を増す。中世に僧医が担った働きのごとく、今後アウトリーチ、社会への働きかけが不可欠で、身体性のみならず精神性、社会性の視座から患者にかかわる医師がより求められるだろう」
(引用終)

最後になりますが、スマトラ島沖地震(2004年)をおぼえているでしょうか? この震災で、巨大な津波を生き延びた象たちがいたのですが、何ゆえでしょうか? 答えは、巨大地震を経験した年老いた象が群中にいたか否か、だそうです。

激しい地震の揺れ、その意味を感じとれたのは、年老いた象でした。その危険性を記憶していた、老人ならぬ老「象」。「逃げろ!」と新しい方向、ベクトルを示せた根拠が「分析」「再現性」ではなく「経験」であった好例です。新しいもの、新しい情報のみに頼ると、細き声を聞き逃すこともあります。

2011年、東日本大震災の津波の際も、同様な津波の経験から建てられた石碑(自然災害伝承碑)を認知していた住民が、石碑より内陸へ逃げるよう周知されていた結果、被災をまぬがれた例もあります。石碑から出ていた先祖の声が聞こえたか、聞く気がなかったか。

サイン、予兆はすべての人に平等にある。が、その意味は人生の経験値、歴史の経験知に拠って変わる、とも学べるかと思います。人類にとって津波級にインパクトの強い、今回の新型コロナウイルス感染症は慢性に経過する症状(long COVID)もあります。経験知の集積である古典に拠りつつ、微力ながら私も東洋医学で貢献したいと願います。

眠っている巨象、起きろ。

【以上、転載禁止】

2021年8月13日

文責 みちとせクリニック

院長 堀田広満