「2023年に入れば安定供給されるようになるかな」と楽観してましたが、漢方の粉薬(エキス剤と呼ばれます)がまだまだ品薄のようです。原因は、漢方が新型コロナウイルス感染症の急性期および慢性期治療に必要とされているから、です。需要があるんですよ。新時代の漢方。
2021年には、全身倦怠感などの新型コロナウイルス感染症の後遺症に補中益気湯が効く、など騒がれ始めていましたが「知る人ぞ知る」ニュースでした。しかし昨年2022年8月には、ついに某社の漢方製剤群が安定供給できないほどとなり、28品目の漢方エキス剤が「生産調整」「限定出荷」となりました。
それがB社、C社…と飛び火したようで、日本国内で漢方エキス製剤をとりあつかう企業が影響を受けています。A社はまだ23品目を出荷できていない(5か月経過した昨年末時点)、とのこと。
さて…当クリニック、みちとせはどうか、というと、生薬そのものを煎じる自由診療なので影響はほぼありません。そもそも漢方のエキス製剤の主な需要は保険診療にあり、保険で十分効果が出るのであれば、それも結構なことです。ただし安定供給は大前提。
たとえてみれば、インスタントコーヒーの在庫がなくなって慌てたお客さんが店員さんに「今度いつ納入されるんですか?」と問い合わせたところで、「とにかく入ると得意先にすぐ売れて、まだ分からないんです!」と現場も状況を把握できていない、というところでしょう。
お客さん。インスタントコーヒーに限らず、コーヒー豆そのものを取り寄せてドリップコーヒーにすれば良いだけの話、かもしれませんぜ。即席では提供できない、アロマの芳醇な香り、濃厚な風味があなたを満たします。
私が危惧しているのは、新型コロナウイルスなど一過性のことではなく、今後かならず起きてくる漢方エキス製剤の価格破壊。インスタントコーヒーにたとえたエキス製剤は、現状の保険診療のままだと(保険の薬価改定などで)値崩れを起こしてきます。中国など他国でも生薬の価値が上がってきており、原価は上昇。一方の保険診療下での売値は、値下がり。となれば、どこかで逆ザヤになってきます。売れば売るだけ企業の赤字に。対策としては生薬の質を落とす、生産農家の人件費を減らす…あまり考えたくないですね。
「保険診療から漢方がなくなるはずが無い」と楽観視する人も多いですが、団塊の世代が団塊でなくなる時代の少し前に、保険診療からの漢方はずしが起きるのでは?と私は考えています。それが私が自由診療に舵をきった理由のひとつです。いや、もっとポジティブに、いにしえから伝わる元々の漢方をお出ししたい、だけなのですが。
いま起きている漢方エキス不足、その混乱は、これからちょっと先の時代の予行演習かもしれません。
あなたもどうですか? ドリップコーヒー。良質な豆をとりそろえるように、適正な生薬が入ってきているか、目を光らせつつ日々、生薬を患者さんにご提供しています。
違いの分かる人には分かる、煎じ生薬。自信をもってお勧めします。
【以上、転載禁止】
みちとせクリニック院長
堀田広満
日本東洋医学会の学術総会が本日5月27日~29日まで開催中です。
今回が第72回。歴史ある学会。院長の私も演題が採択され、一般演題を発表しています。

カテゴリーは医学史。聞き慣れないことばですね。漢文など古典書物などから、その当時の医術を読み解いたり、現代医療との比較検討をおこなったりします。「なんちゃって漢方医」とか「なんとか王子」とか、つくしのように乱立してますが、古典を読まずにどこを自分の診療の拠り所にしているのか、いささか心配になります(笑)
『勿誤薬室方函口訣』に引用された『療治経験筆記』
ことしのテーマはこれにしました。「浅田飴」で知られる、浅田宗伯があらわした『勿誤薬室方函口訣』(ふつごやくしつほうかんくけつ)は、保険診療で用いられる漢方エキス処方の原典としてもかなりのウェイトを占めています。
さて、その『勿誤薬室方函口訣』のルーツはどこにあるのでしょうか?
それに関する指定講演を北里大学東洋医学総合研究所で命じられたのが、2016年の漢方治療研究会で、私の演題名は『勿誤薬室方函口訣』の出典調査から、でした。このポスター、実は私がつくりました!

向かって右の人物が、浅田宗伯先生です。
「陳皮-2」の記事を書く前に、新型コロナ感染症に関しての良書『新型コロナとワクチン 知らないと不都合な真実』(峰 宗太郎・山中 浩之 著)を紹介します。

TVで峰医師をみた方も多いのではないでしょうか。本当に現場に必要とされる医師はテレビに出演する時間もない場合が多く、TVに出ている時点で「嘘なんじゃね? 大丈夫?」と斜に構えてコメントを聞くべきこともあります。が、この本はバランスがとれていて首肯できます。対談相手の山中さん(以下Y)が医療者ではないのが功を奏しており、一般の方には理解しやすいと思います。
(以下、引用始)
峰 ご自身が、本を閉じてからまずやるべきことを考えてみてください。(中略)それは、「本は読んだけど、峰とYさんから聞いたことを、本当に丸呑みしていいの?という疑問を感じること」です。
Y お金を払ってお読みいただいたラストに、ものすごい結論が来ました。怒られないといいんですが…
峰 でもそういうことですよ。これで、峰が、あるいはYさんが言うことはみんな正しい、なんて思うなら、おそらく別の本を読んだらまたひっくり返る、出てきた情報に飛びついて振り回される、そういう可能性があるってことでしょう。峰が正しいか、別のなんとか先生が正しいか、などということは、はっきり言えばどうでもいいんです。
(引用終)
終始こんな感じ(笑)。オミクロン型が出現する前の出版(初版2020年12月)ですが、オミクロンなど潜伏期間の短い型が出現した現在でも、科学の正しい捉え方、集団へのPCR検査の意味(特異度、感度)など総論はためになります。
この本で挙げられた「呼吸器感染症の予防法リスト」。これからも重要です。
- 栄養と睡眠をしっかりとる
- 手指衛生(手洗い)の徹底
- 咳エチケット
- 3密を避ける
- 体調不良者と接触しない、体調不良なら外出しない
- マスクの着用
- 十分な換気
- うがいについては水で十分
「当たり前の【よく食べ】【よく眠る】が感染症対策のゴールデンルール」と1章のまとめに書かれています。上記の予防法リストにも「ワクチン」と書かれていないのがポイントです。ワクチンより先にやるべきことがある、という点は今も変わりがありません(この点、実は2019年まで大流行していたインフルエンザもまったく同様)。「栄養と睡眠」は養生であり、「栄養」は生薬、「睡眠」は針灸をふくめた自律神経系の調節ともかかわりが深いです。
ところで東洋医学にたずさわる方の中に、トンデモ本を出す人がいるのは本当に残念です。恥ずかしい。私は常に西洋医学のフィルターをとおして、東洋医学をみつめる習慣をつけています。その上で、目の前の患者さんにとって西洋医学の方が better と判断すれば、東洋医学ではなく西洋医学が良い旨、つたえています。
文責 みちとせクリニック院長
堀田広満
はじめに
新型コロナウイルス感染症の拡大にともない、コロナ後遺症(Long COVID)でお困りの方が多いことを実感しています。新型コロナウイルス感染症に陳皮(ちんぴ)などの生薬が有効ではないか、とする英語論文が認められるようになってきました。すでに Long COVID、すなわち慢性症状、とくに倦怠感へ補中益気湯(ほちゅうえっきとう)が用いられているごとく、神経・免疫・内分泌(ホルモン)が複雑に関連する病態、多彩な症状を併発する一連の症状群には、漢方薬が有効なことがあります。ちなみに補中益気湯にも陳皮はふくまれます。
このたび東洋医学、とくに刻み生薬をもちいる煎じ漢方を長期間、臨床の現場で実践してきた経験を活かし、Long COVIDに対してもお力になるべく、オンライン診療を本日より開始いたします。
みちとせクリニック(以下、当クリニック) を対面受診された方はもちろんのこと、今まで当クリニックを受診されたことのない方も、初診からオンライン診療が可能です。
またコロナ後遺症のみならず、一般の漢方診療もオンライン診療が可能です。遠慮なくご利用ください。
オンライン診療のメリット
移動時間・交通費がゼロ。

院内、交通機関等における感染リスクがありません。
誰にも知られることなく、診察ができます。

予約診療のため多忙の方も便利。

遠方でも専門医の診療が受けられます。

診察後の判断になりますが必要に応じ、
登録先まで煎じ薬を直接お送りすることができます。

日本東洋医学会漢方専門医であったとしても、煎じ薬を処方している医師は、日本全国でも数少なく、遠方から時間をかけて当クリニックまで来院される患者さんもおられます。煎じ薬の服用を検討したことがありながら、近隣にアクセスできる医療機関が無くあきらめていた方も御相談ください。
重要事項
【オンライン診療を考慮中の方は、お目通しください】
●当クリニックは自由診療(※1 全額自費)のみですので、ご了承ください。
●当クリニックでは、新型コロナ後遺症など様々な症状の診察を、ご自宅等(※2)から受けることができるオンライン診療をおこなっています。
●患者さんが運転中、作業中など安全性を確保できない状況下にあると判断される場合、対面診療をお勧めし途中で診療を打ち切ります(※3)。
●厚生労働省よりオンライン診療中の画像、及び動画の撮影・録画・録音・無断転載は、当クリニックおよび患者さんの両者ともに禁止されています(※4)。
(※1)自由診療とは、医療保険を使わず診療を受けることです。
(※2)不特定多数の方がいる環境、喫茶店などプライバシーを確保できない状況下での診療は許されていません。勤務先などの場合、御本人以外にプライバシー情報が漏洩しない環境下であれば、オンライン診療は可能です。厚生労働省の指針では「プライバシーが保たれるよう、患者が物理的に外部から隔離される空間においてオンライン診療が行わなければならない」としています。
(※2, ※3, ※4)「厚生労働省オンライン診療の適切な実施に関する指針」に準拠
ご利用方法
①【ご予約 依頼】
curon を用いたオンライン診療です(2021年10月25日現在)。下記タブをクリックいただくと curon のホームページへリンクします。
当クリニックのオンライン診療はネット予約制です(手紙、電話等では予約できません)。curon 登録時に保険証、クレジットカード(※)が必要となります。
(※)curon で使用可能なクレジットカード会社(2021年10月現在)
VISA / Master / JCB / AMEX / Diners Club
当クリニックの医療コード:bdc0
(オーではなくゼロです。予約時入力)
curon の安全性
当クリニックでオンライン診療に使用するシステムcuronは情報セキュリティに関する国際標準規格「ISO27001」の認証を取得しています。
当クリニックがオンライン診療システムで利用する curon はスマートフォン、タブレット、パソコンいずれでもご利用可能です。
ほか詳細はリンク先をお目通しください。
②【問診票 送付】
まず患者さん御自身で curon 登録が必要です。
外来予約のご依頼を当クリニックで確認後、患者さんへ問診票を事前にお送りしますので、ご利用端末で回答ねがいます。他機関での「健康診断の結果」「お薬手帳」および「診療情報提供書(紹介状)」などがあれば、その情報もお送りください。診察当日、限られた時間を有効にもちいるため、問診票はできるだけ詳細にご記入ください。
③【予約日時 確定】
問診票などの内容を当クリニックで確認し問題がなければ、ご予約日時にオンラインで診察いたします。急性期の新型コロナ感染症、救急疾患をうたがう場合もしくは身分確認ができない場合など、特殊なケースはおことわりする場合がありますが、オンライン診療の特性上、診療拒否には該当しません(参照:令和2年5月1日の厚生労働省事務連絡)。
事前に curon の「テスト通話」から、音声や動画に問題がないかご準備ください。
万が一、当方の都合で予約日を変更せざるをえない場合、メールにてご連絡いたします。curon 登録時のメールアドレス等の使用許可をご了承下さい。
④【診 察】
時間厳守でお願いします。
診察はオンライン入室時から15分間で、延長はできません。
「身の置き所がないか」「冷えはないか」「汗が出やすいか」など東洋医学ならではの問診、オンライン上で聞き取れる声の特徴(聞診:ぶんしん)、体型・外観などの印象(望診:ぼうしん)、舌の所見(舌診:ぜっしん)などで診察をおこないます。
生活習慣改善のみで症状改善が期待され、処方が不要な場合があります。
オンラインでは診断が不十分な場合、対面診療が必要となることがあります。
また西洋医学の対応が必要と判断される場合は、お近くの病医院の受診推奨をおこなう場合があります(オンライン診療の特性上、他院への紹介状の作成は行っておりません)。
急患等のため万が一、当クリニック側でオンライン入室が遅れた場合、開始後から15分間診療します。延長が難しい場合、もしくは患者さんのご都合がある場合、患者さんのご希望により、別枠で予約をお入れします。
本人以外の立ち合いは厚生労働省より原則、禁じられています。
ただし受診される方が小児、聴覚障害の方の場合、それぞれ保護者、手話通訳者が同席せざるを得ない場合もありえます。
その場合、同席する方がオンライン診療時に共有した、患者さんおよび当クリニックのプライバシー情報を漏洩しないよう、事前に確認しておいて下さい。
また手話通訳者が同席する場合、その方の顔写真付き身分証明書の写しを問診票回答に付し、当クリニックにお伝え下さい。
(参照:令和2年8月24日の厚生労働省事務連絡)
⑤【決 済】
診療費の合計金額が curon に表示されます。
ご確認後、決済となります。
煎じ薬などが必要と判断された方への現物配送は、翌日以降となります。
オンライン診療費用
- ●(curon アプリ利用料 330円)(※1)
- ●情報通信機器運用費 550円
- ●初診料 6,000円
- ●再診料 4,000円(※2)
- ●煎じ薬 1日あたり600 – 800円(※3)
- ●配送料 小サイズは660円、大サイズは840円(いずれか)
- ●【希望者のみ】自動煎じ器 20,000円
すべて税込価格(2021年10月時点)
(※1)curon 運営会社への支払いとなります。
(※2)1年間受診がない場合、再び初診となります。
(※3)煎じ薬の日額は体重、年齢によって変動します。
なお curon 登録時の案内後、患者さん側で了承される予約決済の件ですが、患者さんの自己都合により予約がキャンセルされ、連絡なく5日間経過した場合においては、当該予約料5,000円の自動決済を申受けますので、予約日時の確認をよろしくお願いします。
⑥【処 方】
煎じ漢方が必要と判断される場合、院内で調合した刻み生薬による処方を配送します。院外処方は対応しておりません。
今まで当クリニックにおける対面診療がない方の場合、1年以内の「健康診断結果」「診療情報提供書(紹介状)」など健康状態を把握できる資料をご準備いただけると幸いです。対面診療がなく、これらの書類がない場合、処方可能な日数は7日間です。
(参照:令和2年4月10日の厚生労働省事務連絡)
⑦【その他】
curon 登録や診療予約、使い方に関する質問・お問い合わせは curon にお願いします。
オンライン診療をお断りするケース
●日本国内に居住されていない方、配送先が国外の方
●被保険者証(保険証)が無い、など身分確認ができない方
●3歳未満の小児(※)
(※)社会性が芽生えていない小児の場合、「舌をもっと出して」などの漢方特有の診察時に協力が得られないなど、十分な診断ができないからです。また乳幼児は、触診など五感をフルに用いて診断するべき、つまり直接対面を要する疾患が隠れていることがあるためです。
●「急性期」もしくは「重篤な」新型コロナ感染症の方
●救急疾患をうたがう場合
●西洋医学の診療の方が患者さんの利益につながると判断した場合
●意思疎通が困難な方
●オンライン診療に十分なインターネット環境下にない方
●停電、ネット契約会社の不調などで通信不能となった場合
●天変地異など常識、判例に準拠するもの
以上
みちとせクリニック
デカルトを中心とした近世の哲学者らによって始まった科学、サイエンスですが、彼が『方法序説』を著した1637年から384年間(2021年現在)経過しており、おおざっぱに言えば、彼らの哲学が科学の主流となって約400年を過ぎました。そろそろ、その哲学に反動がくる、いやもう来ているかと感じています。
「私は目に見えない現象は信じない。またその現象が再現性、つまり繰り返し証明されるものでなければ、信じない」現代科学の主流は、この要素還元論にもとづきます。
私も西洋医学を修める際、西洋哲学は徹底的に仕込まれました。白血病など悪性腫瘍を専門とし移植医療、抗がん剤など化学療法を主体に治療してきた経歴をもつ私は、現在も科学の重要性を否定しません。人間はだまされやすいから、です。
その一方で要素還元論(単純系の科学)が万能ではないことを痛感してきました。臨床現場で患者さんに真剣に対峙し、逃げずに治療を突き詰めればその結論に達するはずです。そして複雑系をとりあつかえる医学、漢方、針灸に出会いました。医者となり5年目(2000)、移植医療にたずさわりつつ日本東洋医学会に入会し、あれから21年。
現在、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が猛威をふるっていますが、科学的な判断を厳密におこなうための治験も十分におこなわれず(というよりも、その緊急性のため行えず)、世界各国でワクチンが接種されています。なのでデルタ株、これから拡大するであろうラムダ株などの更なる変異型が今後、今のワクチンで切り抜けられるかは未知数です。デカルトが言った「科学」的に考えれば。繰り返しの証明ができないので。現時点での正当な科学の答えは「分からない」が正しい。
感染予防のエビデンスに乏しいと言われてきたマスク着用も結局、感染の有無に関係なく重要であることを、皆さんは既に御存知でしょう。コロナワクチンの接種を済ませても、マスクはしばらく必要です。いわゆるブレイクスルー感染ですが、ワクチン接種完了後も新型コロナウイルスに感染する事例が多く、いまイスラエル、イギリスなど各国がこの反省の切っ先に立っています。
コロナ禍の当初、ある番組で「(予防に)非感染者がマスクを着けるのは意味がない」と発言していた医師がいました(単純系の科学では、ある意味正しいです。エビデンスが無いので。ですが、私はCOVID-19に限らずマスクをしてきました)。その際、お笑い界の「殿」が「先生がマスクしているのを見たら、たたいてやるぞ!(笑)」という趣旨で笑わせていましたが、その後、どうなったでしょうかネ。
科学はカッコイイのですが万能ではなく、しかしそれでも重要なものです。単純系の要素還元論、また複雑系の東洋医学はそれぞれ対立するものではなく、補完しあうものと私はとらえます。
そういえば昨年末(2020)から「風の時代」がはじまった、という人もいます。
簡単にいえば、上級国民が主流でなくなり、むしろ庶民が主体となる時代。
マテリアル(モノ、カネ)から情報、精神(伝達、スピリチュアル、愛)へ。
モノ・カネを右から左に動かすだけでは、富が生まれなくなった時代。
むしろ伝達する人、隣人に分け与える人が生きやすくなる一方、自分の手を汚さないサイコパスには生きづらい時代、とも言えましょう。ある意味、正しい反動です。
5年前(2016)わたしが『小児外科』誌に寄稿した「小児漢方の歴史と未来」に、こんな文章があります。
(引用始、図を参照)

「日本史の周期性を論考する。都が京都、鎌倉、江戸と遷ったがおのおの、間隔は約400年である。平安京(794年)から鎌倉開府(1192年)まで貴族による中央集権が続いたが、その後戦国の世となり、関ヶ原の戦い(1600年)までは各領地をもつ武家が乱立した。この約800年のあいだ、主たる医療者は前4世紀が宮廷医、後4世紀は僧医であり、両者は劇的にシフトした。また江戸開府(1603年)から近年まで4世紀間、主な危機は内乱よりも国外にあり、再び中央集権化したが、2001年の9.11以降世界的には内乱、テロが勃発し中世と似た状況にある」
(引用終)
ヒトの寿命が200年、300年と伸びていかない限り、この周期性は失われないと推察しています。これから400年、戦争よりもむしろ内乱・テロに要注意と考えます。香港、ミャンマー、ハイチ、アフガニスタンなど、この2年で様変わりした世界で、日本も変化していくでしょう。
つまり今後、中世還りをするとわたしは考えています。古典にもとづく東洋医学も出番が増えます。「いまさら漢方? 針灸?」と感じる方もいるでしょう。しかし、これからの時代、先祖がのこしてくれた経験値、生薬・針といった手にとれる歴史的遺産が、また医療施設というハード面の境界線を超える垣根の低いボーダーレスな、フットワークの軽さが重要と思います。
今年、厚生労働省が柔軟な対応に踏み切ってくれたオンライン診療も、治験や新薬には不向きですが一方、歴史の蓄積がある治療には向いています。また訪問診療やオンライン診療が増える今後、必要とされる医者は中世・戦国時代の「僧医」と似てくるでしょう。外に出ない内向きな平安時代の「宮廷医」よりも。
前述の論文で、わたしはこうも書きました。
(引用始)
「わが国の医療は緩やかに中世還りをするはずだ。保険診療の財源確保が困難ゆえ患者が自動的・安定的に来院する時代は終わり、医療機関の経営は不安定性を増す。中世に僧医が担った働きのごとく、今後アウトリーチ、社会への働きかけが不可欠で、身体性のみならず精神性、社会性の視座から患者にかかわる医師がより求められるだろう」
(引用終)
最後になりますが、スマトラ島沖地震(2004年)をおぼえているでしょうか? この震災で、巨大な津波を生き延びた象たちがいたのですが、何ゆえでしょうか? 答えは、巨大地震を経験した年老いた象が群中にいたか否か、だそうです。
激しい地震の揺れ、その意味を感じとれたのは、年老いた象でした。その危険性を記憶していた、老人ならぬ老「象」。「逃げろ!」と新しい方向、ベクトルを示せた根拠が「分析」「再現性」ではなく「経験」であった好例です。新しいもの、新しい情報のみに頼ると、細き声を聞き逃すこともあります。
2011年、東日本大震災の津波の際も、同様な津波の経験から建てられた石碑(自然災害伝承碑)を認知していた住民が、石碑より内陸へ逃げるよう周知されていた結果、被災をまぬがれた例もあります。石碑から出ていた先祖の声が聞こえたか、聞く気がなかったか。
サイン、予兆はすべての人に平等にある。が、その意味は人生の経験値、歴史の経験知に拠って変わる、とも学べるかと思います。人類にとって津波級にインパクトの強い、今回の新型コロナウイルス感染症は慢性に経過する症状(long COVID)もあります。経験知の集積である古典に拠りつつ、微力ながら私も東洋医学で貢献したいと願います。
眠っている巨象、起きろ。
【以上、転載禁止】
文責 みちとせクリニック
院長 堀田広満
明日、みちとせクリニック院長 堀田がオンラインで30分間、講演します。
漢方治療研究会で指定講演をした以来なので、久しぶりですなぁ。

私に与えられたテーマは「子どもの成長発達をサポートする漢方薬」です。
シンポジウムのトップバッター。
講演するよう指名してくださった先生方、また準備をすすめてくれた方々。
お疲れ様です。感謝します。
本クリニックの初ブログに記した、雑誌『東京人』。
(2021年6月時点での)最新号の特集は、その名も「東洋医学のチカラ」!

数日前、紹介した江口寿史さん pop なイラストの4月号と並べて、写真を撮ってみました。うーん、東洋医学も pop なのが分かりますねぇ(笑)
『東京人』は時々、購入していますが、テーマがなかなか面白いです。「シティ・ポップが生まれたまち」特集号は、Amazon口コミをみたら高評価でした。
さて「東洋医学のチカラ」特集号。私が9年間、奉職した北里大学東洋医学総合研究所【略して「東医研」(トウイケン)】のなつかしい先生方、薬剤師さん、針灸師さん、また日本東洋医学会の委員会で辞書・医学書作りに4年間、私が共に仕事をしてきた先生方が、インタビューを受けています。
その中のお一人。東洋医学、とくに古典を学ぶ者で、その名を知らなければモグリ間違いなしの、小曽戸洋(こそとひろし)先生も執筆されています。私が先生とお近づきになったのは、今から10年前、2011年のこと。
わたしの漢方の師匠、花輪壽彦先生が古典をスラスラ読みこなし、実施診療に活かしているのをみて、古典の重要性に気づきました。古典を読み解く中、しかし1人ではどうしても打開できない壁があり、東医研の医史学教室の小曽戸先生に初めてお声がけしたのでした。
学問に厳しい一方、音楽などの趣味が多彩。人間味があり、尊敬しています。今回の特集号では、巻頭の文面と「これだけは押さえたい漢方の歴史」の2か所、執筆されています。
その中でも7,8年前『孫真人玉函方』(そんしんじんぎょくかんほう)という中国の古典が、千葉県の博物館で展示されたことを知り、その重要性にいち早く気づいた先生が「すぐに飛んでいきました」と書いており「先生らしいなぁ、ワクワクして本当に急ぎ足になっておられたのだろうなぁ」と、顔がほころんでしまいました。
拝見しましたが、やはり文才があるなぁ、と。読ませるのが上手な、読み手にアクセルを踏ませる小説家っていますが、読後の感覚が似てます。
さて、私が「みちとせ」と名付けたクリニック。「…3,000年なんて大袈裟なんじゃね?」と言う人もいるかもしれません。用意周到な私は開業前、ある本の記載から自信をもって「三千歳」と名のることにしました。
小曽戸洋『中国医学古典と日本』序章頭より引用始。
「中国には約3,000年、日本にはその半分の1,500年にわたる伝統医学の歴史がある」
(以上、引用終)
塙書房から出版された同書。東洋医学の全体像をとらえる、良い専門書です。約10年前の私がそうであったように、「なんちゃって漢方」「なんちゃって針灸」を抜け出したい方、ぜひお読みください。
みちとせクリニック院長 堀田広満