Q 「煎じ薬って、粉の漢方とどう違うの?」
A 「煎じ薬は生薬に水を加え、煎じた(煮出した)お薬です。煎じ薬と粉の漢方、いわゆるエキス剤と比較すると、かなり違いがあるので表で説明しますね」

ポイントをまとめます。

① 煎じ薬とエキス剤は、それぞれメリット・デメリットがある

② 煎じ薬の方がアロマ作用もふくめ、鮮度が高く治療効果が強い(仮に、煎じ薬をエアロプレスの精油豊かなコーヒーとすれば、エキス剤は乾燥の際にかなり香りが飛んだインスタントコーヒー、とも言える)

③ 煎じ薬の指標成分を100とすると、エキス剤は70、つまり煎じ薬の3割引きでも流通可能(上記②と関連、後述する「漢方エキス製剤の審査方針」(※))

④ 腸内細菌を改善する食物繊維の量が、煎じ薬には多く含まれる

⑤ 煎じ薬は専門性が高く、経験のとぼしい者が処方すると、効かないどころか副作用が強く出現する可能性が、エキス剤よりも増える。

→ ③・⑤と関連しますがたとえば、食物繊維を増やすべく砕いた薏苡仁(ハトムギ)などを大量に用いた場合、FODMAP食を避けるべき過敏性腸症候群(IBS:irritable bowel syndrome)の患者さんは腸内細菌が改善する前に、便通に苦しむかもしれません。一概にエキス剤が悪いとは言えません。とはいえ、保険診療のエキス剤は148種類のみで、圧倒的に煎じ薬の方が処方の幅が大きく、根治が難しい病、慢性疾患への選択肢が増えます。刻み生薬の煎じ薬(別名に湯液、煎液)を処方できる漢方専門医の出番です。

さて…ボリュームが多いのですが今回、比較表をつくりました。とくに食物繊維に関しては(2024年6月27日現在)検索する限り、煎じ薬とエキス剤を比較の俎上にのせたものが、他に無いようです。

(※)「漢方エキス製剤の審査方針」

エキス及び最終製品の1日量分中の指標成分について、規格及び試験方法について含量規格を設定し、別紙1(2)のイ(筆者注:標準湯剤(つまり煎じ液)における指標成分の下限値)の70%以上に設定することで差し支えないが、標準湯剤(筆者注:煎じ液)の指標成分の下限値以上とることが望ましい」と国が定めている(薬審二第120号通知、昭和60年5月31日)

以上です。後日、下記の全てではありませんが、項目毎に記事にしてみます。

〈コスト〉 煎じ薬よりも、保険診療のエキス剤の方が安いが今年、薬価改定でそのエキス剤も大幅に値上がりした。

〈携帯性・保管性・簡易性〉 保険診療のエキス剤が良い

〈アロマ・味覚作用〉 煎じ薬の方が強い

ところで芍薬甘草湯という服用して数分後には、こむら返りが嘘のように消失する漢方をご存知ですか? 本来、これは矛盾なんです。胃で消化されるまで数分どころか約4時間かかり、はたまた吸収の過程を経て、やっと有効成分が筋肉を弛緩させるのがスジです。芍薬甘草湯は甘草以外、芍薬しか含まないのですが、その芍薬にはモノテルペン配糖体という香り、芳香性の物質が含まれます。最近、そのアロマ成分、モノテルペン配糖体が芍薬には少なくとも11種類含まれていることが判明しました。そういうこと。嗅覚の嗅神経を介して、ダイレクトに中枢に作用しているのでしょう。ちなみに嗅神経は脳幹に達しない、動物的な神経。脳幹を経ない神経は他に視神経しかありません。発生学的には野生的な、極めて変わった神経です。

〈食物繊維〉 煎じ薬の方が多い

〈薬の効果〉 煎じ薬の方が高い

〈専門性・稀少性〉 煎じ薬の方が高い

〈処方の幅〉 煎じ薬の方が広い

【以上、転載禁止】

みちとせクリニック院長

堀田広満