みちとせクリニック堀田広満『勿誤薬室方函口訣に引用された療治経験筆記』。

当院の院長、堀田が書いた論文が先月、『漢方の臨床』(2023年、第70巻・第4号)に載りました。

煎じる刻み生薬を扱う医療者で『漢方の臨床』を知らなければ、その人はモグリです。興味があったら近くの漢方薬局や漢方医に聞いてみてください。ちなみに本雑誌を刊行する東亜医学協会は、昭和13年(1938)に大塚敬節矢数道明らが中心となり創立されました。今年で85周年。

ちなみに大塚・矢数の御両名は、堀田が8年間奉職した北里大学東洋医学総合研究所の初代・二代目の所長を務められた東洋医学界の大御所です。おふたりの名前を知らない漢方医がいたら、その人もモグリ(笑)

論文名は『勿誤薬室方函口訣に引用された療治経験筆記』
…そもそも、どう読むの?…と言われそう(笑)

ふつごやくしつほうかんくけつ に引用された りょうじけいけんひっき

さて、この論文。2冊の医書を比較検討したものです。前者『勿誤薬室方函口訣』(1878年刊)は浅田宗伯、後者『療治経験筆記』(1795年成)は津田玄仙の著作です。

両書に共通するのは口訣(くけつ)です。口訣とは、ある処方の用い方のコツを、師が弟子に伝える口伝のこと。その一部が医書となり後世に伝えられました。これは日本独特の文化的な結実で、他国にあまり類をみません。当院を受診される患者さんの診療にも、これらの口訣を活かしています。

この口訣をあつかった小説『本売る日々』が2か月前(2023年3月)、出版されました。同書の著者は2つの賞(中央公論文芸賞、柴田錬三郎賞)を受けています。日本経済新聞の夕刊で紹介されており、すぐ購入しました。口訣が過去の産物ではなく、現代にも息づいていることが分かり、興味深かったので近日、記事にします。

60歳で時代小説家デビュー、67歳で直木賞を受賞した青山文平 氏が、この本を著わされました。

日本東洋医学会の学術総会が本日5月27日~29日まで開催中です。

今回が第72回。歴史ある学会。院長の私も演題が採択され、一般演題を発表しています。

カテゴリーは医学史。聞き慣れないことばですね。漢文など古典書物などから、その当時の医術を読み解いたり、現代医療との比較検討をおこなったりします。「なんちゃって漢方医」とか「なんとか王子」とか、つくしのように乱立してますが、古典を読まずにどこを自分の診療の拠り所にしているのか、いささか心配になります(笑)

『勿誤薬室方函口訣』に引用された『療治経験筆記』

ことしのテーマはこれにしました。「浅田飴」で知られる、浅田宗伯があらわした『勿誤薬室方函口訣』(ふつごやくしつほうかんくけつ)は、保険診療で用いられる漢方エキス処方の原典としてもかなりのウェイトを占めています。

さて、その『勿誤薬室方函口訣』のルーツはどこにあるのでしょうか?

それに関する指定講演を北里大学東洋医学総合研究所で命じられたのが、2016年の漢方治療研究会で、私の演題名は『勿誤薬室方函口訣』の出典調査から、でした。このポスター、実は私がつくりました!

向かって右の人物が、浅田宗伯先生です。

本クリニックの初ブログに記した、雑誌『東京人』。

(2021年6月時点での)最新号の特集は、その名も「東洋医学のチカラ」

数日前、紹介した江口寿史さん pop なイラストの4月号と並べて、写真を撮ってみました。うーん、東洋医学も pop なのが分かりますねぇ(笑)

『東京人』は時々、購入していますが、テーマがなかなか面白いです。「シティ・ポップが生まれたまち」特集号は、Amazon口コミをみたら高評価でした。

さて「東洋医学のチカラ」特集号。私が9年間、奉職した北里大学東洋医学総合研究所【略して「東医研」(トウイケン)】のなつかしい先生方、薬剤師さん、針灸師さん、また日本東洋医学会の委員会で辞書・医学書作りに4年間、私が共に仕事をしてきた先生方が、インタビューを受けています。

その中のお一人。東洋医学、とくに古典を学ぶ者で、その名を知らなければモグリ間違いなしの、小曽戸洋(こそとひろし)先生も執筆されています。私が先生とお近づきになったのは、今から10年前、2011年のこと。

わたしの漢方の師匠、花輪壽彦先生が古典をスラスラ読みこなし、実施診療に活かしているのをみて、古典の重要性に気づきました。古典を読み解く中、しかし1人ではどうしても打開できない壁があり、東医研の医史学教室の小曽戸先生に初めてお声がけしたのでした。

学問に厳しい一方、音楽などの趣味が多彩。人間味があり、尊敬しています。今回の特集号では、巻頭の文面と「これだけは押さえたい漢方の歴史」の2か所、執筆されています。

その中でも7,8年前『孫真人玉函方』(そんしんじんぎょくかんほう)という中国の古典が、千葉県の博物館で展示されたことを知り、その重要性にいち早く気づいた先生が「すぐに飛んでいきました」と書いており「先生らしいなぁ、ワクワクして本当に急ぎ足になっておられたのだろうなぁ」と、顔がほころんでしまいました。

拝見しましたが、やはり文才があるなぁ、と。読ませるのが上手な、読み手にアクセルを踏ませる小説家っていますが、読後の感覚が似てます。

さて、私が「みちとせ」と名付けたクリニック。「…3,000年なんて大袈裟なんじゃね?」と言う人もいるかもしれません。用意周到な私は開業前、ある本の記載から自信をもって「三千歳」と名のることにしました。

小曽戸洋『中国医学古典と日本』序章頭より引用始。

「中国には約3,000年、日本にはその半分の1,500年にわたる伝統医学の歴史がある」

(以上、引用終)

塙書房から出版された同書。東洋医学の全体像をとらえる、良い専門書です。約10年前の私がそうであったように、「なんちゃって漢方」「なんちゃって針灸」を抜け出したい方、ぜひお読みください。

みちとせクリニック院長 堀田広満