4日前、開かれた日本小児漢方懇話会に参加された先生方、お疲れ様でした。
私は30分ほどオンラインで講演を担当しました。

講演で漢方生薬の神麹(しんきく)に含まれるフェルラ酸についてこんな質問が出ました。

「フェルラ酸はアルツハイマー型認知症に有効で、サプリメントもかなり売れているが、漢方に用いられている神麹や川●(センキュウ、●=くさかんむり+弓)中のフェルラ酸が効くメカニズムは分かるか?」

まさかのフェルラ酸ピンポイント質問がくるとは思わず、予想外(笑)
なかなか手強い質問で、こう答えました。

「慢性疲労症候群が中枢神経の慢性炎症によることが近年、判明してきている。フェルラ酸は抗酸化作用、抗炎症作用があることが知られている。フェルラ酸が血液脳関門(blood brain barrier)を越えて脳内に入り抗酸化・抗炎症作用で神経系に効くのか、それとも他の系(神経・免疫・内分泌連関など臓器クロストーク)を介するのか、その機序は分からない」と。

その後、頭痛に有効な半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)に神麹がふくまれるのは何故なんだろう?と思い調べてみました。元々、神麹は腸内細菌を改善することで脳腸相関がおきるのだろう、と考えていましたが、それだけでもないようです。複合的に効くようです。

結果をしめす前に、質問のきっかけになったスライドがコレ↓。

さて…フェルラ酸が抗炎症作用をもつことは多数論文化されている。
→ 生薬の神麹は抗炎症作用をもつフェルラ酸を介することで、頭痛に有効なのかもしれない。

というのも、日本頭痛学会『慢性頭痛の診療ガイドライン2013』にも記載があるように、フリーラジカルである一酸化窒素(NO)などの慢性炎症の化学物質が頭痛を悪化させることは間違いないからです。

治療として、NOの産生に必要な nitric oxide synthase(NOS)を抑制するL-N(G)-塩酸メチルアルギニンを用いると、頭痛が緩和することが判明しています (Ashina Mほか: Effect of inhibition of nitric oxide synthase on chronic tension-type headache: a randomised crossover trial. Lancet 1999;353:287-289)。

ごく最近だと Natalia ASほか:The Role of Single-Nucleotide Variants of NOS1, NOS2, and NOS3 Genes in the Comorbidity of Arterial Hypertension and Tension-Type Headache. Molecules 2021;26:1556 など。

つまりNOを介した炎症が頭痛をおこすことが臨床上、知られている。ということは、NOを介した炎症経路をブロックすると、頭痛が緩和する一群が存在することが分かる。なるほど…ということで医学論文検索サイトPubMedで調べてみました。

それぞれのhit数は下記。
  ferulic acid(フェルラ酸)   5,851件
  Alzheimer(アルツハイマー)184,535件
  antiinflammatory(抗炎症) 672,801件
  free radical scavenging(フリーラジカル消去)53,003件
  Nitric oxide(一酸化窒素) 180,424件
  headache(頭痛)     105,508件

  フェルラ酸 + 抗炎症      → 2,723件
  フェルラ酸 + フリーラジカル消去 → 419件もhit!
  フェルラ酸 + 一酸化窒素  → 同様に185件もhit!
  フェルラ酸 + アルツハイマー  → 127件
  フェルラ酸 + 頭痛       → 10件(少ない…)

結論。
フェルラ酸は「アルツハイマー型認知症」、フリーラジカル・一酸化窒素(NO)をふくむ「抗炎症」の研究は進んでいるようです。特にフェルラ酸の論文のほぼ半分(2,723 / 5,851)は、抗炎症がテーマにふくまれます。残念ながら頭痛に関してはほぼ手つかずのようです。ただし面白い論文をひとつ見つけました。

半夏白朮天麻湯にふくまれる天麻(てんま)、頭痛に使われる有名な生薬のセンキュウに関する論文 (Yahui Miほか:Pharmacokinetic comparative study of tetramethylpyrazine and ferulic acid and their compatibility with different concentration of gastrodin and gastrodigenin on blood-stasis migraine model by blood-brain microdialysis method. J Pharm Biomed Anal 2020) です。

訳すと「(センキュウ中の)テトラメチルピラジンとフェルラ酸が各々、異なる濃度の(天麻中の)ガストロジン・ガストロジゲニンによって、血液および脳内で薬理動態がいかに変化するかmicrodialysis methodを用いておこなった比較試験」ってとこです。

【以下、上記論文の抜粋】
 天麻、センキュウは一次性頭痛(※)を治療するために伝統的に使用されてきた。
 ガストロジン(GAS)は天麻の、テトラメチルピラジン(TMP)とフェルラ酸(FA)はセンキュウの、各々の主要な活性成分である。片頭痛モデルマウスをもちいて、血液中および脳間質液中の、GASの濃度を変化させてTMPとFAの成分濃度変化を調べた。
(※筆者補足:片頭痛、緊張性頭痛などが一次性頭痛 ⇔ 二次性頭痛は原因が明白なもの、クモ膜下出血など)

 GASなしのコントロール(Group 1)
 低濃度GAS群(Group 2)
 高濃度GAS群(Group 3)

 上記3群を比較すると(天麻にふくまれる)GAS無しの群(Group 1)に比べ、GAS有りの群(Group2および3)では、血液中および脳間質液中のTMPおよびFA濃度が上昇した。


【以上、抜粋終了】

著者は天麻中のガストロジン(GAS)が低濃度でも十分、センキュウのフェルラ酸(FA)を上昇させると考えているようです。結果の図からもそれが読み解けます(図はネット公開あり Download : Download high-res image)

冒頭の質問にあったように、フェルラ酸はアルツハイマー型認知症に有効であることが、国内学会でも提示されています(日本認知症予防学会誌2018;8:2-13)。

そのフェルラ酸を、神麹が高濃度にもつと最近わかってきました。フェルラ酸はサプリメントだと約200mg/日の使用で有効性があるそうですが、神麹は種類によりますが約1-2g中にほぼ同量のフェルラ酸を含有するようです(奥津ほか:中国及び韓国の市場品「神麹」における菌叢と含有成分の実態調査. 生薬学雑誌2017;71:41-48)。

フェルラ酸を多く含有する色調の神麹を当院では用いています。
生薬は良品の選定が重要、命です。

もしかすると神麹、天麻をふくんでいる処方、半夏白朮天麻湯は頭痛のみならず痴呆症にも有効な側面があるのかもしれません。

先程の論文からは、半夏白朮天麻湯(神麹)のフェルラ酸を体内で高濃度にして治療効果を上げるべく、同処方中の天麻が活躍しているストーリーがみえます。先人の英知。ちなみに先程の論文から推測すると、天麻の量はそれほど多くなくとも(non-dose dependent)有効性は変わらないと思われます。

天麻は、気管支喘息などに用いられるロイコトリエン拮抗薬のように、all or none な(あれば少量でも効く)効き方をするのかもしれません。ちなみに天麻はオニノヤガラです。
オードリー春日のネタ「オニガワラ」ではありません…失礼しました(笑)