前回、煎じ薬とエキス剤の違いを述べましたが、今回は甘草という生薬にスポットをあてて、煎じ薬とエキス剤の成分量の違いについて書きます。

甘草はグリチルリチン酸(glycyrrhizinic acid,以下GA)という物質を保有し、この甘味のGAは醤油や味噌の製造にも用いられます。「グリチルリチン配合」とコメントが入る、歯磨きのCMを覚えている方もいるでしょう。GAは抗炎症や免疫調節などの作用を認める生薬成分です。

漢方エキス剤で甘草をふくむものは保険適応の全147処方中、110弱と多く、実に7割以上を占めます。

さて煎じ薬とエキス剤の成分量の違い、その実例の論文を紹介します。
黒田ら「漢方薬の煎液およびエキス製剤の成分分析 -カンゾウ配合漢方薬中のグリチルリチン酸量- 」 医療薬学 43巻11号619-629ページ(2017年)

本論文では、甘草が1日量として 2~6g 配合される漢方薬13処方、それぞれ煎じ液と(某社の)医療用エキス剤のGA量を比較しています(煎じ薬に用いられた刻み生薬は株式会社ウチダ和漢薬株式会社栃本天海堂から調達)。また小青竜湯という処方のみ、8社のエキス剤(医療用、各社とも国内で製造承認されている)中のGA量を比較しています。

まず【煎じ液と医療用エキス剤の各処方における、GA量の比較】です。

黒田ら(医療薬学 43: 619-629, 2017)のFig 1より、甘草ベース量を割愛し日本語表記へ筆者変更

結果。全処方において、煎じ液の方が医療用エキス剤よりもGA量が多いことが分かります。あくまで甘草の一成分、GAのみの検討ですが、煎じ液はエキス剤にくらべ2.6倍~3.5倍の成分量を含みます。

【次に小青竜湯について、8社のエキス剤中のGA量を比較した結果】です。

上記論文のFig 7より、会社名をアルファベット表記に、また日本語表記へ筆者変更

結果。小青竜湯のGA量は8つの会社で、最高量は最低量に比し2.5倍強のバラつきを認めました。ドラッグストアで販売される「一般用」のエキス剤ではなく、「医療用」でこれほど差が出るとは正直予想しませんでした。新知見を提供された論文著者に感謝します。

一般的にエキス剤では、1日服用量に甘草のベース量が2.5gを超える薬剤は、高血圧、低カリウム血症などの所見をともなう偽アルドステロン症(リンクは厚生労働省)という副作用に注意すべきことが知られています。量が増えるほど、GAが原因(※)となって生じる偽アルドステロン症の発生頻度が増すからです。

(※)GA増加が偽アルドステロン症を誘発する主役ではなく、GA増加により11β-hydroxysteroid dehydrogenase 2 の活性が抑制され、過剰となったコルチゾールがミネラルコルチコイド受容体(MR)を介して、ミネラルコルチコイド作用を発現することによって生ずる。

補足ですが、甘草の1日量が2.5g未満の漢方であっても偽アルドステロン症を生じる方もいます。萬谷らによる2015年の論文によれば「甘草を1日1g使用した患者での偽アルドステロン症の頻度は1.0%(平均)であった」そうです(日本東洋医学会誌 66巻3号 p197-202)。

偽アルドステロン症など副作用を疑った際、煎じ薬の場合、甘草単体を減量もしくは去す(抜く)ことで対処が可能です。一方のエキス剤は、処方量全体を減らす必要があります。つまりエキス総量を減らすと、他に含有される生薬量も同時に減り、それはすなわち薬効の低下に直結します。

いずれにしてもGAのみならず、煎じ薬にふくまれる成分は、エキス剤よりも多く含まれるはずで今回の論文は、その一例です。当然、煎じ薬の薬効が強く出ることが多い。その分、煎じ薬は副作用に注意を要します。2つ、3つと同時服用の漢方処方数が増えれば、エキス剤でも甘草の合計量が増えるので、実は煎じ薬よりも危険なケースもあります(とくに東洋医学の専門医でない者が処方する場合)。

論文をふりかえり念のためですが、煎じ薬の薬効がエキス剤よりも3倍増す、ということではありません。本論文は服用前の試料、サンプルの検討です。ただし口の中に入る時点で、本論文のように相当量の差があり、体内で代謝される際、良し悪しに関わらず違いが生じる可能性は高確率と判断できます。

「エビデンス確立のためにはエキス剤が必要」と言われますが、小青竜湯のみの検討でも、会社間に相当のバラつきがあり、エビデンスの判定、論文の深読みが重要と分かります。同じ処方名でも、どのメーカーが製造したものか、をプロが考慮に入れて発注する根拠は、エビデンスよりむしろ経験です。附子剤なら●●社、宣伝に力を入れている処方ならそれらに傾注している●●社、建中湯類なら(オリゴ糖を豊富にふくむ)膠飴を後入れ(= 煎じた後に入れ)る●●社など。

小青竜湯のみの検討で、この結果ですので、年代をさかのぼってみると更に面白いデータが出るかもしれません。おそらく保管されたロットが無いと思うのですが、生薬の価格が低く、質のよい生薬が手に入りやすかったバブル期のロット。約40年前に製造されたロットと近年のロットが、同一会社、同一処方で比較され、そのデータが論文化されれば素晴らしい evidence となるでしょうね。

同一会社で製造されたエキス剤でも、年代により生薬の産地、その地の天候・気候、生薬の等級に相当な違いがあるはずで、品質にバラつきがあるのだろうと思います。私は日本東洋医学会に入会する前年の1999年、25年前(2024年7月時点)から医療用漢方エキス剤を患者さんに用いてきましたが、同一会社、同一処方でも薬の切れ味、治療効果に変化が生じてきたように、個人的には感じています。

以前は某社の医療用漢方エキス剤を、全国年間トップ10に入るほど使用していた私ですが、4年前に開業した後は、自由診療で煎じ薬・針灸の医療を南青山で実践しています。エキス剤にはエキス剤の良さがあり、自由診療での東洋医学には自由診療での東洋医学の良さがあります。

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みちとせクリニック院長

堀田広満